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2004.01.03

■■「通告」

 その少年は、海岸沿いの坂を自転車で登っていた。
 目指す場所は、岬にある一軒の家。
 この訪問は、少年にとって久しぶりの仕事だった。
 黒いスーツに黒いマントという格好は、少年の厳粛な任務を象徴していた。
 息が切れ、少年の顎が上がる。抜けるような青空が目に入った。少年は自分の任務について深く考えることはなかった。ただ、今日が曇天じゃなくてよかったとだけ思った。
 少年は最後の坂を懸命に漕いだ。やがてピークを過ぎ、道は緩やかな下り坂となった。少年は足をペダルから外し、この惑星の重力にまかせるだけにした。あとはもう自転車を漕がなくても目的地へ辿り着けるだろう。
 少年は、なだらかな坂から岬に向かう道に入った。ほどなく、一軒の家の前で自転車を停めた。玄関の前に立ち、少しの間、息を整える。そして、呼び鈴を押そうと手を伸ばしたとき、扉が内側から開かれた。
 出てきたのはメアリという名の老婆だった。
 少年は右手を頭の上に載せ、小さくお辞儀をした。それが正式な作法だった。
 メアリは小さな来訪者を認めると、瞳を大きく見開いた。少年の来訪の意味を理解したのである。
「・・・、見つかったのね・・・」
 老婆は落ち着いた声でそう言った。
 少年はこくりと頷いた。
「どこで見つけたの?」
「赤の惑星、125.28、マイナス98.75、π砂漠の地下235」
 少年は事務的に答えると、懐中から小さな羅紗布の袋を取り出し、黙ってメアリへ差し出した。
 メアリはその袋を受け取った。
「ああ、お帰り・・・、息子よ・・・」
 老婆は微かに震える手で、その袋の中からそれを取り出した。
 それは、小指の先ほどの大きさの、黄金色に輝く小さな玉だった。
 メアリはその玉をゆっくりと自分の口へ運んだ。そして胸の前で手を組み、上を向いて一気に飲み込んだ。そして、少年に向かって、「ありがとう」と言った。 
 少年は、また、ちょこんとお辞儀をし、老婆の礼に応えた。そして、黙ったまま老婆に背を向けると、自転車に跨り、帰路に就いた。

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Comments

毎回愉しく読ませていただいているとともに、勝手にサイトで紹介させて貰っています^^;
小気味のよいショートショート。話数での表記があるので、或いは連作なのかなとも思ったりもするのですが、
ともあれ、これからも愉しみにしています。

恐縮です。
確かに、話数の表記は紛らわしいですよね。

Thanks in favor of sharing such a good opinion, piece of writing is nice, thats why i have read it completely http://nyopencoffee.org

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